クンタの軽井沢日記

これは一部事実にもとづいた
フィクションです


(その17)
  お別れ

元旦にはみんなでお雑煮を食べました。
ぼくのごはんも特別でかまぼこ入り。
でも本当はカマボコは嫌いなんだ。
お肉だけ食べて残してやった。

クンパパとお姉さんはおばあちゃんの病院へお見舞いにいっちゃった。
おじいちゃんとぼくとクンママはお留守番さ。
おじいちゃんはあんまり元気がなくてぼくのことかまってくれない。
食事もあんまり進まないみたい。
「4日になったら先生に来てもらおう」ってクンパパが言ってた。

3日の夜いつもみたいに「おやすみ」っておじいちゃんが
車椅子から手を振って看護婦さんとお部屋に入っていった。
4日の明け方おじいちゃんの部屋が騒がしくなった。
クンパパやお姉さん、クンママが入っていって「お父さま!お父さま!」
って言ってる。
ぼくは入れないからドアの外でウロウロ心配してたんだ。

すぐに先生が来てくれた。
ぼくもおじいちゃんのお部屋に入ろうとしたら「だめっ!」って怒られた。
しばらくしたらクンパパが出てきて「クンタもおじいちゃんにお別れしなさい」
だって。
また東京に帰っちゃうのかな?
おじいちゃんはベッドで寝たままだよ。なんか変だな。
クンママが「おとうさまは亡くなったのよ」って泣いていた。

昼になってクンパパの二人の息子や上のお姉さんも東京からかけつけ
ました。みんなでおじいちゃんとお別れだねって。

ぼくにはよくわからない。おじいちゃんはベッドに寝てるのに。
でもそれからおじいちゃんはベッドから起きてきて、
ぼくにカステラくれることはもうありませんでした。

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87歳で父は大往生、寝ているまま、本当に穏やかに亡くなりました。
父も若いときはコリーを3頭も飼っていて、我が家は犬の絶えたことの
ない家庭でした。
はじめはクンタの大きさにおどろいたようでしたが、車椅子から手を
伸ばしてクンタを触ろうとしたり、おっかなびっくりカステラをやる様子は
微笑ましいものでした。

たったひと月の軽井沢生活でした。
これからずーと父と暮らすつもりで何もかも準備していたので、あまりにも
早すぎる別れにしばらくの間は何も手につかない状態が続きました。

父が亡くなって納棺、通夜、葬儀などのあいだクンタは元気なくしょんぼり
している様子でした。
いつもなら人が出入りするたびに喜んで吠えるのに玄関のスミでじっと
うずくまったままでした。
お別れして以来、父の部屋にも入らずベッドには二度と近づきませんでした。
クンタなりに何か感じていたのでしょうか。

                      by クンパパ

         
    
−その18へつづく−


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